いや、「歩けー」じゃないし。
アルケーです。
哲学用語で、「万物の根源」なんて意味で使うわけです。
大昔の哲学者たちはアルケーは水だとか火だとか数だとかアトモスだとか、根拠もないことを調子こいてえらそうにほざいていました。
今では科学も発達し、アルケー、つまり万物の根源が何かは周知の事実です。
そう、卓球だよね。
今から137億年前に「ビッグバン」という大爆発から宇宙が生まれたことは言うまでもないが、正式名称が「ビッグバン・スマッシュ・エターナル」であることはあまり知られていないことです。
達人だけが打つことのできるものすごいイケてるスマッシュ、「ビッグバン・スマッシュ」を達人同士が永遠のごとく打ち合うことによって生じた爆発が宇宙を生み出したのです。
人類の祖と言われるアウストラロピテクス原人が初めて使った道具が卓球のラケットであることや、エジソンの発明した電球のヒントが卓球のボールであったこと、そもそも地球が丸いのは卓球のボールが丸いからといったことは卓球がアルケーであることの十分な根拠だと言えるわけです。
そんなことはどうでもいいんですが、2ヶ月ほど前から卓球をはじめました。
十数年前までは、自分で言うのもあれですがまあまあ強くて、学生にコーチをやったりしていたんですが、現役を退いてからその熱も冷め、今では退役卓球人として未来ある若者たちを応援しているだけの存在でした。
しかしここ最近の卓球界のテレビ番組ゴールデンタイム進出などを機に、もう一度昔の情熱を取り戻してやろうと意気込んで卓球を再開したわけです。
ネットで検索し、地元のクラブチームに申し込んで、練習した初日に
「Mチカくん、来週市民大会があるんだけど出場してみる?ブランクあるみたいだから今回はやめとく?」
と聞かれたので、「あ、じゃあ出場してみますね。」なんて回答してみた。
「してみますね」なんてなんとも自信なさげな、謙虚な印象を意識しつつも、正直僕の心は踊っていた。
さっきは「自分で言うのもあれですがまあまあ強くて」なんて言いましたが、こちらも謙虚に言ってみただけで、実は何を隠そう僕ってすんごい強かった。
なので、たかが「市民大会」程度の小さな大会でこの僕に敗北の二文字は万に一つもない、そう確信していた。
試合当日。
1試合目を迎えた僕は愕然とした。
学生のときの試合をイメージしていた僕は、若者たちが闘志をむき出しにして、
「さー!」とか「ちょれい!」
とか叫びながらの白熱した試合を想像していたが、「お願いします」と挨拶した相対にはよぼよぼのおじいちゃん。
正直想定外としか言いようがない。
ビッグバン・スマッシュを打つまでない。
だってそこにはおじいちゃんなのだ。
いや、え?待てよ?目を擦ってよくみると。
やはりおじいちゃんなのだ。
寸分違わずおじいちゃんであることに疑いようもない、そのおじいちゃんとの試合がはじまった。
結果は。
思ったより強かった。
それ以下でも以上でもない。
さすがおじいちゃんになるまでずっと卓球を続けてきただけあって、テクニックや小手先は立派なもんではあったけど、ただそれだけ。
2試合目、3試合目、4試合目、それぞれ
おじさん、おじいちゃん、お兄さんと試合をした。
勝ち上がるたびに少しづつ相手の力量も強くなっていくことを感じるが、それ以上に自分が現役時代を思い出し、尻上がりに力量があがってくるのを感じた。
やはり楽勝。
正直これまでの4試合、本気など一度も出していなかった。
そして周りを見回しても、自分以上のプレイヤーなどいない。
この僕の復帰戦にしては少々小さい大会だが、それでも優勝となれば自分の自信にもつながる。
クラブチームへのアピールにもなる。
5試合目。
相手との「お願いします」の挨拶のその瞬間、僕は感じた。
「こいつ、なかなかやるな」
ウェアの着こなし方、リストバンド、卓球人なのにネックレスかつ茶髪、高いタッシュ、高いラケット。
これだけの条件が揃うと、相手と打ち合わずとも実力の片鱗を感じざるを得ない。
そしてこの前行った卓球屋さんで高くて手が出なかったタッシュやラケットを当然の如く身にまとう彼が単純に羨ましかった。
装備力では彼の方が上。
これだけは紛れもない事実だった。
しかし試合1球目の打ち合いを制した瞬間、装備力の差などでは抗えない、圧倒的な手ごたえを感じる。
たしかにこいつはこれまでの4人とは比べものにならない。
良いタッシュとイケたラケットを持ってるかもしれない。
しかし1球1球を本気で、そう、ビッグバンスマッシュで圧倒すれば必ず勝てる相手だ。
相手の顔を見ると相手も何かを感じ取ったようだ。
これまでの自信に満ち溢れた表情から緊迫感と焦燥感を感じる。
ギリギリの攻防の末、1セット、2セットを僅差で勝した僕はもはやゆるぎない「勝利」の二文字を感じていた。
3セット目がはじまったその瞬間、予期せぬ出来事。
相手はこれまでの戦術を一変し、サービスやレシーブの配球を短くコートの端にポイントを絞ってきたのである。
コートの端を左右に振られた僕はフットワークを駆使してそれに対応していた。
相手の彼を応援している誰かがふと叫んだ言葉が気になった。
「相手だいぶへばってるよー!1本集中!」
おいおいおい(^^)
たかが5試合程度でへばるわけないじゃんかよ。
ほんと笑わせんな。
足元をチラリとみると膝がガクガクと笑っている。
ふと我に返ると、ラケットを持つ手と逆の手は自分の胸元を抑え、肩でゼーゼーと息をしている。
ここだ。
ここで形勢逆転を狙わなければ3セット目を取られてしまう。
「ビッグバーン・・・」
身体中のエネルギーをラケットを持つその手に集中させ、
全身の筋肉の捻れの反発力を全てラケットとボールのインパクトに照準を合わせる。
「スマーーーーーーーッシュ!」
スマッシュを打ったそのそのボールは見事に相手コートへと吸い込まれていった。
な?!
相手は僕の打ったボールをものすごいスピードで返球したのである。
そ、その技はビッグバン・ブロック・ユニバーズフォエバー!
まさか貴様、私のビッグバンスマッシュを狙っていたのか!
そもそもこれまでの4人はこの私を疲れさせるための刺客だったのか!
3セット目を取られた僕は、パチンの自分の頬を叩き、気合を入れた。
「さあここから!」
ここからが真骨頂。
経験の差はこういった場面でこそ発揮されるものです。
4セット目と5セット目、
サクッと負けた。
もはや5セット目は11-1で負けた。
体力とかマジ無理っす。
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