【伝説】ストーカー事件

あの忌まわしい、想像を絶する出来事が起こったのは 今年(2001年)のバレンタイン前日からである。 その事件が解決の兆しに向かったのはそれから1ヶ月後のことである。

 おれはその1ヶ月の間、悶えるほどの苦悩に満ちた生活を送った。

とにかくそこまでの道すじを順を追って書き綴っていこうと思う。 


 あれは2月の10日。 

 友達と飲みに行った帰りだったのでおれはほろ酔いで家のドアを開けた。

そこへおれの母が「なんか女の子から電話あったわよ。どうしても連絡とりたいとか。」

 と言ってその子の番号やらなんやらのメモを渡してきた。 


 きた。やっと時代がやってきた。

 いや、やっと時代がおれに追いついてきたというべきか。

「どうしてもおれと連絡を取りたい女性」と聞いたとき、人はどう考えるだろうか。


まず好きだね、おれのこと、間違いない。 

さらに「どうしても」の表現から醸し出される彼女の煮えたぎるような欲情が想像できますね。

彼女はおそらく全裸でしょう、間違いない。


それにしても家の電話にかかってくるってことは、高校か中学の友達? 

学校では恥ずかしくて言えなかったし、連絡先も聞けなかった。

でも好き。とても好き。もう我慢ならない!私全裸です!


 ステキな想像に胸を膨らませ、まだ見ぬ愛しの美少女にお電話してみたわけです。 


 電話に出たのはKさん。  

まだ見ぬ美少女でもなんでもなく、それはずっと前に大学の友人Y君と一緒に一度だけ遊んだN大の女の子でした。そこでおれは疑問に思ったんです。 

なんでこの子はおれの家の番号知ってんだ? 


おれ「なんで家の番号知ってんの?」 

Kさん「私数か月くらい前に携帯無くしちゃって、それでMチカくんの番号もわからなくなちゃって。でもどうしても連絡とりたいからタウンページでこの1ヶ月間Mチカくんの家の番号調べてたんだ」

 嬉しくなかったわけじゃないんです。 

 自分を好いてくれる人がいるって幸せなことじゃないですか。 

 でもタウンページて。 

 世の中には何人おれと同じ名字がいると思ってんだ。 

おれの名字はけっこう珍しいわけなんだけどそれでもやっぱり1ヶ月かかったわけで。  

しかもKさんの大学は東京だけど家は静岡県にあるんです。 

つまりはタウンページで調べるのもけっこう困難を強いられるわけです。 


 今思い出してみるとうちの母が「その子に、この家にMチカくんっていう人いらっしゃいますか?って聞かれたんだけど」っていう言葉をよく考えてから電話すればよかった。 

 っていうかうちの母もそんな怪しい女に 快く「いますよ♪」なんて普通いうか? 

 Kさん「それでバレンタインって空いてる?」 

 おれ「おれ今カノジョいるからバレンタインは空いてないんだ♪」  

Kさん「じゃあ13日でもいいんだけど・・・・」 

おれ「でも都心出るのめんどくさいから今度学校始まってからにしようよ」  

Kさん「じゃあ私がMチカくんの地元行くよ、住所知ってるし。」 


 きょ、脅迫ですか? 

 人が下手に出てれば いい気になりやがって。 

 そこでおれは言ってやりましたよ。 


 おれ「だ、だったらおれが都心行くよ・・・」 

 べ、別にびびってねーし。 

 なんか13日は都心に行く気分つーか。 

 まあ、ついでにってね。 

 何のついでかって?と、トイレットペーパーとか買うし。ハンズで。 


 おれ「じゃあ、13日16時に新宿駅ってことで」 ってことで電話を切りました。



 とうとうこの日がやってきた。 

 でも何も心配することはない。 

 待ち合わせ場所。

午後4時。 


 おれ「おっす、久しぶり」

 Kさん「久しぶり~」 


 とりあえずマックに入りました。 

 何気ない話。 

 何も変わったことはない。 


 とそのとき。 

 Kさん「私、今日チョコ持って来たんだ。日付け変わってから渡すね」


 この女は兵法を心得ている。 

 おれはまんまとやつの策にはまったのである。  

おれはよ~く頭の中で知恵をしぼって考えてみた。

   奴は静岡県に住んでいる=12時過ぎるまで一緒にいる=終電ない=帰れない 


 なんとかしなければ。 

 どうにかしてこの場を切り抜けなければ。 

 おれは奴の餌食になってしまう。 

 いいじゃん、食べちゃえばいいじゃん(^O^) 

 あなたはそう思うかもしれない。 

 しかし、その当時付き合っていたカノジョへの少しの罪悪感、  

そして久しぶりに会って再確認したKは・・・やっぱり好みじゃなくって(てへ) 


 何か方法があるはずだ。 

 おれの脳味噌は回転した。

 地球の回転速度なんて目じゃないくらいに回転した。 

ないはずの脳味噌までどっかから出てきて、 脳細胞たちがわいわいわい相談しまっくった。

 パッ。突然目の前が開けた。  

そうだ。おれは奴がトイレに行ってる隙に友達のY君にメールを入れた。 

 「あと一時間くらいしたらおれにとりあえず電話してくんない、まじ頼む」  

その理由はこのあとわかることなのだがとりあえずそれから40分後くらいに店を出ることになった。 


 Kさん「どうする? お腹空いたね。 どっかでご飯食べよっか?」 

 おれ「あ、うん」 


 おれはやつの話などほとんどそっちのけでY君からの救いの電話を待っていた。 

どこの店かは忘れたが、飯を食べるべく店へ入るその瞬間、救世主が舞い降りてきた。


 ぷるるるるる、ぷるるるるる 


 おれ「もしもし」 

 Y君「もしもしおれだけどどうしたの?」 

 おれ「まじっすか?!これからっすか?!」 

 Y君「え、何が??」 

 おれ「まじ今日入んなきゃいけないんすか?」 

 Y君「何言ってんだお前?」 

 おれ「えー。でも先輩のお願いじゃ断れないなぁ。

    ほんと勘弁ですけど。わかりましたよー、 しょうがないから行きますよ♪」

 Y君「だからなんなんだ、お前今どこにい プツ プー、プー、プー・・・・ 

 おれ「どうしてもバイト入んなきゃならなくなったんだ、ほんとごめんね。今度遊ぼうよ♪」  


よっしゃあああああ!!勝ちですな!! ナイスおれ!!! おれ頭いいぃぃぃ!!


 このときはそう思っていたんです。 

とりあえずこの日は無事にチョコだけもらって帰ることができたのでこの件は一件落着したもんだと思ってました。 この日、地元に帰る途中で友人がうちの近くのファミレスにいることを知り、その日 の出来事を話すべくファミレスに直行しました。

 ファミレスに着くとさっそく友人に見守られる中、さっきもらったチョコが入ってると思われる袋を開けてみました。 

 中には・・・・・ 豆粒のように小さな3つのチョコと一枚の手紙と数千に及ぶ色とりどりのクリップ。 

 クリップ?! 

 なぜそんなにたくさんのクリップが?! 

 ふくろの容量の80%を占めるその色とりどりのクリップ。  

おそらく100均で買うと7~800円分くらいじゃなかろうか。 


 おれ「とりあえずこのチョコお前食って」 

 友人「ちっこいけどうまいじゃん」 

 おれ「そ、そうなんだ。よく食えるね。」

 友人「別に、チョコはチョコっしょ。」 

 キチガイの友人は放っておいてとりあえずお手紙拝見です。


 Mチカくんへ  

今日はありがとう。いつもバイトとかお疲れ様です。やっぱりなんかわかんないけど愛してます。携帯無くしたときはかなり悲しかった。Mチカくんの番号わかんなくなっちゃったんだもん。あたしのこともっと知って欲しいって思います。Mチカくんは一度しか会ったことないのに好きとかなくない?っていうけれどだったらもっともっと私のこと知って欲しい。それにMチカくんももっともっと知りたいな。そうすればきっと私を愛してくれるでしょ?? 春休みとか結構長いからいっぱい遊ぼうよ。 私1人暮らしすると思うから遊びにきて。

 P.Sチョコ私が作りました。食べてください。一緒に入れたクリップは私の愛の量をあらわしたつもり♡ぜひ使ってください。 

 Kより 


 カノジョいるって言ったし。

 あんたのことなど知らなくていいし。

 クリップ使わないし。 


 この晩メールでお断りの返事をさせていただきました。 

 なんでメールかって??

 だって直接声聞くの怖かったんだもん。 


 世にも恐ろしい境遇が待っていたのはそれから3日過ぎてからだった。 

 3日過ぎたんだから2月の16日くらいからだったと思います。 

毎日大量にメールがくるんです。 

 1人でいるときはメールは返さなかったんですが 友達といるときはちょくちょく返してました。

 これからの文章はメールの内容です。

 あまりにもメールが多く、全てをお見せすることは難しいので一部をピックアップして、おれの返事も一緒にのっけます。


 K「なんでそんなこというの?この前また会ってくれるっていったよね」 

 K「なんで返事くれないの?嫌いになった?」  

おれ「嫌いになったとかじゃない。カノジョいるし。付き合えないだけ」

 K「だから私のこともっとよく知ってそれからカノジョと比べてよ」 

K「私の方が絶対いいってわかってもらう」 

 K「私のどこがいけないの?」 

 K「なんで答えてくれないの?」 

 K「返事くれないと私どうにかしちゃう」 

 K「どうして私の愛情わかってくれないの?」  

おれ「おれ性格きつい子好きなんだよね、Kはそうじゃないからきっとおれと会わないよ。ごめんね」 

 K「私、実は性格きつかったりする。今まではいいように見せたかっただけなの」 K「だから私をもっと知って欲しいの」 

 K「Mチカくんがたまにしかメールくれないのは私が嫌いだから? それとも忙しいから?」 

 おれ「ってかもしかして男と付き合ったことないっしょ??」  

K「私ってものすごく選ぶ方だからMチカくんしかいないの」 


 秀逸な回答だと正直思った。

 付き合ったことがないという自分の落ち度をうまく隠蔽しつつ、さらにおれという類稀なる存在を唯一無二まで押し上げるこの表現。 しかし、違う。

使い所がなんか違うのである。 

 というかそもそも、こちらも選ばせろという話だ。 

きゃわいい女子高生にでも生まれ変わってくれれば選んでやるって話です。 


 おれ「やっぱりないんだね。選ぶ権利はお互いにあると思う。」 

おれ「っていうかおれKのこと嫌いだからもうメールしないほしい。」 


 勝った。 

 これまで怒涛のKの連続メールであったが、ここでMチカ連続メール。 

 なんだ、こいつジャブいつも1発だけじゃん。 

 しかもまともなパンチ打てないじゃん。 

 また、ジャブかね。またしょぼいジャブ1発ですかね。 

えー、そこでストレート?!痛い。これは痛いよー。 


 その日、彼女からそれ以上の返信はなかった。 


 しかしその次の日… 非通知で電話があった。

 思わずなにも考えず電話を取ったおれは驚愕した。 

 おれ「もしもし」 

 K「私だけど今K市にいるよ。」 


 お、おれの地元じゃん。 

 やつは実は最大の武器を持っていたのだ。 

 あのタウンページで調べたおれの住所という。 


 おれ「まじで?なんのために?」 

 K「冗談だよ、今家にいるの?」 

 おれ「そうだけど」 


 K「そうなんだ、それだけバイバイ」 



 何かがおかしい。

そう、違和感である。

 微かな違和感ではない。圧倒的な違和感だ。 

 いる。明らかにすぐ近くまでKは来ているに違いない。 

家の窓という窓から外を確認し、トイレの窓を覗いたそのとき。 

 もうなんか。 隠れてとかじゃなくKは普通にいた。 

 それこそなんか堂々と。 


 まだ、おれに会いに来たのが目的とは限らないじゃないか。 

 ぐ、偶然かもしれないし。 そうだ、Kはたまたま買い物に立ち寄ったに違いない。 

じゅ、住宅地だけどすごい良いスーパーがあるんだ(いなげや) 


 1時間程、ちょこちょこトイレの窓を覗くも、彼女は微動だにしない。 


 

ぷるるるる、ぷるるるるるる ぷるるるる、ぷるるるるるる 




 おれ「はい・・・」 

 K「窓から目、合ったよね。少し話せる?」 

 おれ「はい・・・」


 皆さまは死んだ魚の目を見たことがあるだろうか。 

このときのおれの目はking of death fish 死んだ魚の目の王様だった。 


 K「どうしても直接会って話がしたくて。メールでは嫌いって言ってたけど。嫌いなんて言わせちゃって本当にごめんなさい。まだお互いのことぜんぜん分かってないのに嫌いになるはずなんてないのにね。私があんまりメールいっぱい送りすぎちゃったから、私がわけわかんなくなっちゃったから、私のこと考えてあんなこと言ったんだよね?Mチカくん優しいから。」 


 ふ、普通に嫌いなんすけど。 

 このときのおれの気持ちってわかるかな。  

「Mチカくん優しい」とか言われていると、思ってしまうのである。  

「良い人」であり続けたいと思ってしまうのである。  

「良い人」でありつつも、でも彼女を心から拒絶したいという二つの完全に相反する気持ちが心の中で両存する感覚。 あと、メールでは言えても面と向かうとちょっとびびっちゃうこの感覚。

 僕はできるだけ理路整然と、かつ優しく、でもきちんと拒絶するということを意識して会話した。 


 おれ「Kはお互いをもっと知ることに固執しているみたいだけど、恋愛っておれはそういうもんじゃないと思う。お互いに知りたいと思うから自然とお互いのことが分かってくるわけで、それってお互いが惹かれた結果から生じるもんだと思うんよね。どちらか片方、今回はKだけが知りたいと思ったり、私のことをもっと知ってもらえればって思うことは、自分よがりなんじゃないかな」 


 K「それじゃあ、私はMチカくんとずっと平行線になっちゃうよ。どちらかが歩み寄らないと線が交じ合うことはないと思う。私はMチカくんと一緒にいたいわけで、それはMチカくん片方の自分よがりなんじゃないかな」


 理路整然と・・・優しく・・・ 


 おれ「たとえば、Kがぜんぜんなんとも思っていない男の子がいて。その男の子が、Kのことが好きだから歩み寄って欲しいと言ってくる。Kが嫌だというと、その男の子はそれはKの自分よがりだと言う。それってどう感じる?」 


 K「それっておかしいよ。今は知らない男の子の話をしてるわけじゃなくて、わたしとMチカくんの話をしてるんだよ。わたし1回会っただけで人を愛せるなんて初めての経験なんだ。運命だと思う。だからもっとわたしの気持ちも大事にして欲しい。」 


 おれ「こんなこと言うとあれだけど、おれにとってKは知らない男の子と一緒なんだよ。好きじゃないし、特にKのことを知りたいとも思わない。」 


 K「だから好きじゃないのも、知りたいと思わないのもわたしのことを知らないからだと思うの。もっと知ってくれれば好きになってくれるし、そしたらもっと知りたいと思うでしょ?」 


 理路整然と・・・やさ・・・やさぐれて・・・・ 


 おれ「えっと。顔から無理。家に来ちゃう性格がそもそも無理。今日で会うの3回目だけど、会えば会うほど無理。無理。」 


 K「でもそれh 


 おれ「無理」 


 K「・・・・・・・・・・」 


 おれ「・・・・・・・・・・・(^@^)」 


 しばらく無言が続いた後、彼女は小さな声で何かを呟き、その場をあとにした。 あれから半年以上のときが経つが彼女からの連絡はない。  

Revival of Mチカ伝説

日記を読むとオナラがしたくなる。そんな日記があるのであろうか。いや、ない。そんな日記はない。ありそうだろう?本当はあるんじゃないだろうか?悩みに悩み抜いた真の探究者であるあなたにだけ真実をお伝えしよう。そんな日記はないのだよ。

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